<連載>(『マネジメント倶楽部』2000年4月号より転載)

探 訪
インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 本連載では、これまで主としてインターネットの持つ力をWWW(ワールドワイドウェブ)機能、つまりホームページ(Webサイト)を通してみてきた。しかし、インターネットの魅力はホームページだけではない。むしろ、電子メールにこそ神髄がある。電子メールを使ったインターネットサービスのひとつに、メーリングリストと呼ばれるサービスがある。これは、これまでの通 信の世界のみならず人間の歴史上まったく考えられもしなかった意志疎通の技術である。


知らないものが得をするインターネット

インターネットの世界は、「知らないもの、弱いものが得をする世界」と言われることがある。それは、インターネット出生時の性格・精神がいまも脈々と生きているからである。インターネットは、軍事や学術の世界から生まれてきたのだが、基底となる精神およびネットワークシステムの理論は相互扶助である。  メーリングリストとは、いろいろなテーマや専門、興味毎に分かれた個々人の電子メールアドレスの集合体のことである。数人から数千人(理論的には数に上限はない)までいろんなメーリングリストがインターネット上に無数に存在する。  このメーリングリストに質問や要望を「投稿」すれば、誰かがそれに答えてくれる、という仕掛けである。このような切実な内容だけでなく、メーリングリストを飛び交うメールには、いますぐ重要ではないような意見・情報の交換や仕事の合間にちょっと発信したような雑談メールまで、そのメールグループのメンバーが認めさえすれば何でもありのバーチャルなおしゃべり空間である。


ビジネス交流の新しい形

 このメーリングリスト機能をビジネス、とくに人脈交流に活用しているグループが日本各地に生まれてきている。Yahoo(http://www.yahoo.co.jp)、goo(http://www.goo.ne.jp)、infoseek(http://www.infoseek.co.jp)などの検索サーバーで「メーリングリスト」「異業種交流」「ベンチャー支援」「起業」などのキーワードで検索すると、メーリングリストを活用して異業種交流やビジネス支援をしあう団体のURLがたくさん表示される。それらをひとつひとつチェックして、自分に合致するグループを見つけて参加すれば、必ず得るものがあるはずだ。このようなサイバー空間上のビジネス支援メーリングリストとして定評のあるサイトをいくつか紹介しておこう。


「協創、共生、貢献」を掲げる246コミュニティ (http://www.caravan.net/246c/)

 これは、筆者も運営に参加しているメーリングリストである。95年から準備が進み、96年年頭から本格稼働しているので、ビジネス支援メーリングリストとしては老舗中の老舗である。  このグループの特徴は、インターネットを使って起業ないし会社経営をしようとする人であれば誰でも受け入れることである。その際、「協創、共生、貢献」という目標に賛成し、実名で参加する、という条件が付いている。メーリングリストでは、匿名でも、あるいは何の審査もなく参加できる自由なものが多く、それがインターネットならではの良さにもなっているのだが、246コミュニティはコミュニティのテーマがビジネスという直接的な利害が絡むものであるため、最低限の自己開示が義務づけられている。  このメーリングリストは歴史が長いだけあって、メーリングリストに参加してから起業した人、内部で仲間を見つけて会社を作った人、スタッフを増強した人、新しい取引先を見つけた人、複数企業で新規プロジェクトを立ち上げた人と、相当数の成果 があがっている。このグループは、国内外の経営学会からも注目され、いくつかの学術論文の対象ともなっている。その一部はホームページに掲載されている。


スマートバレー・ジャパン (http://www.svj.or.jp/)

 スマートバレー・ジャパン(SVJ)は、米国シリコンバレーにおける地域経済の活性化と生活の質の向上をめざした取り組みであるスマートバレーインク(SVI)の活動に共感し、その手法を日本において実践したいと考える個人有志によって、非営利の民間任意団体として1996年9月4日に設立された。  この団体は会員制であるが、非会員を含めたメーリングリストが設けられている。246コミュニティは起業家個々人をネットワークで支えるという色彩 が強いが、SVJの場合には、全国各地で起業や地域興しに取り組んでいる人の連絡会の内容も持っている。NPO法人として活動を定着化する方向を目指し、全国規模のビジネス交流会として発展する可能性のある団体だ。


ネットベンチャーが集う Bitvalleyメーリングリスト (http://www.bitvalley.org/)

 このメーリングリストは、いま最も旬なメーリングリストだ。雑誌・新聞・テレビなどでビット・バレーの名前を聞かれた方も多いに違いない。このグループは、元々は渋谷近辺のネットベンチャーのメーリングリストであったが、オープンにメンバーを募りはじめたことにより、渋谷だけでなく関東近辺から日本全国にメンバーが広がり昨年末に4,000人近くに達する大きなメーリングリストに急成長したものである。1日に流れるメール数も数十通 におよび、いまもっとも活発なビジネス交流メーリングリストのひとつとなった。  メーリングリストへの参加条件は上2つに比べもっとも緩く、ホームページ上から自動登録が可能である。 (ここに紹介した3グループとも参加費は無料、各ホームページから入会の手続きが行える。)


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