<連載>(『マネジメント倶楽部』2000年9月号より転載)

探 訪
インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 前回はiモードを取り上げ、「これからはモバイル・インターネットの時代である」、と書い た。iモードブームは、システムの拡張が追いつかなくなったドコモが1カ月間端末の販売を 停止するという騒ぎにまで発展した。しかしブームはとどまるところを知らず、2000年の半ば にはiモードユーザーだけで800万人を超えた。これに、DDI系のセルラー電話、IDO・ツー カーのEZweb・EZアクセス、J-フォンのJ-スカイサービスを加えると携帯インターネット・ サービスのユーザー数は1100万人を超えたと予想される。携帯電話の普及と機を一にしたモバ イルブームはますますそのスピードを加速している。そこで今回は、イントラネットとマーケ ティング分野にいかにモバイルの波が打ち寄せているかを見てみよう。



 こんなに困っていた

 モバイルコンピューティングの便利さを求めてノートパソコンを持ち歩いている人は多いだ ろう。しかしその実態は、本来必要とする書類や資料の他に、ノートパソコン本体と携帯電話 やPHS(またはカード)、それらをつなぐケーブル、予備のバッテリ、電源パック、出張にな れば携帯電話の充電用アダプタなどを持ち歩かなければならない。便利さの陰に実は大変な不 便を背負っていたのではないだろうか。筆者の体験からでも多くの不便や不安を抱えてきた。 例えば、かさばる荷物に耐えかねてバッグをふたつに分けたりすると電車の網棚に置き忘れた り、はたまた盗まれたりする危険がある。ノートパソコンは機密情報で一杯だからなんとも危 険きわまりない。さらに、メールを確認しようとすると、やおらノートパソコンを取り出して 携帯電話やカードをセットしなければならない。これだけでも結構手間なのに、パソコンを立 ち上げるのにこれまた時間がかかる。急いでいるときには呪いたくもなるが他に方法はない。 つい会社に「何か連絡ははいっていないか?」と電話したりする。本末転倒もはなはだしい。 振動やショックを与え続けているから、ハードディスクのクラッシュも心配だ。また、個人ユ ースでなく、営業担当者1人ひとりにこれらの装備を持たせようとする、IT投資に積極的な会 社にとっては大変な経費がかかってしまう。



 モバイル導入の機は熟した

 企業にとって、冒頭で述べた携帯端末の急速な普及が、状況を少しずつ変えつつある。つま り、携帯端末は小型・軽量でいつでもスイッチが入っており、立ち上げ時間が不要。タクシー の中でも歩きながらでもインターネットに接続可能。公共の場で使用が制限される携帯電話も、 インターネットモードならば静かなので、喫茶店などで使っても他人に迷惑をかけない。操作 性が向上し誰でもストレスなしに使えるようになったことも普及の追い風になっている。さら にこれが決定的な理由といえるかも知れない要因がある。冒頭で述べたように携帯端末を持つ 個人が増えたことだ。モバイル・イントラネットを導入する際に会社は個人の所有携帯を業務 用端末として活用することができるのだ。経費的には端末経費がゼロである。社内システムに 導入しても特別の訓練期間を設ける必要もないし、そのための要員も不要だ。




 モバイル・イントラネットに郵政省も注目

 2000年度の『通信白書』はわざわざ「モバイル・イントラネット」のページをもうけ、「携 帯電話を利用して、社内外を問わない情報共有を実現」とのタイトル記事の中で次のように書 いている。
(http://www.npt.go.jp/polycyreports/japanese/papers/h12/1-index.html)

  • モバイル通信の普及は、ビジネスの現場に大きな変化をもたらしている。
  • 営業担当をはじめとする外勤社員との連絡用に、携帯電話・PHS等を支給する企業は多い。 しかし、情報通信技術の進歩により、今やモバイル機器は、通常の通話はもちろん、文字通 信(シ ョートメッセージサービス、電子メール)、情報サービスへのアクセスといった機能を有し、特 にインターネットへのアクセスの実現は、新しいモバイルワークの可能性を広げた。
  • コンパックコンピュータの「Bizport(ビズポート)」は、NTTドコモグループのiモード対応 の携帯電話と社内イントラネットを結び、外出中の社員を含む社員全員の情報共有、いわば「ポ ケットの中のイントラネット」の実現を目標に開発された。これにより、外出先から社員がイン トラネットにアクセスして、社内のメールアカウントに到着している受信メールを読んで返信 することや、予定表の表示・入力、社内設備の空き時間検索・予約等が可能になり、社内にいる のと同様の情報共有環境が確保される。

 モバイル・イントラネットの導入は政府が推奨しているくらいだから、導入に際して助成金 などの申請にも有利であろう。

 モバイルイントラ専用ASPも登場

 「Bizport(ビズポート)」のような完全なモバイル・グループウエアシステムを導入しなくても、 プロジェクト単位で動くさまざまな企業、業種、企業共同体などにとって便利なASPのiモー ド向けグループウエアがある。ASPとはアプリケーション・サービス・プロバイダーの略で必 要なアプリケーションサービスをレンタルしてくれるプロバイダーのことである。システムに 対する専門知識や専門要員が不要で、安価に高機能なサービスを受けられる利点が受けて、現 在勢いよく普及しているサービスだ。このアプリケーションとしてグループウエアの利用サー ビスのひとつとして株式会社ティファナが提供する「どこでもi」(http://www.docodemoi.com) がある。

 

「どこでもi」は、iモードなど携帯電話からのインターネット接続だけでなくパソコンも使 えるグループウエア・サービスである。ティファナがレンタルで提供するグループ専用のWeb サーバーで、掲示板、スケジュール管理、プロジェクト進行管理、会議室予約などグループウ エアとして必要な機能が利用できる。10ユーザーで月額9800円と使用料も廉価である。ある 広告代理店のユーザーは「パソコンの起動が面倒なためにあまりメールを確認しないメンバー でも、携帯電話に送るとみてくれる」とモバイル・イントラネットの利点を語っている。

 マーケティングにも威力

 モバイル・インターネットの活躍分野はイントラネットだけではない。売上げに即結びつく マーケティングツールとしての利用範囲は広い。  「インターネットで世界に情報発信!」という発想はもう古い。インターネットの神髄は「シ ンクグローバル、アクトローカル(地球規模で考えて地域的に活動する)」という点にある。そ の好例として地域限定型の実店舗マーケティングにiモードコンテンツを有効利用している浜 松市エリアの店舗情報サイト「i-hama Town」(http://i-hama.net/)の取り組みがある。
 「i-hama Town」は、「インターネットは知らなくてもiモードは使いこなせる」というユー ザーをターゲットとしたサイト運営をしている。サイトのコンセプトは浜松市エリアの店舗情 報の掲載。iモード対応携帯電話から同サイトにアクセスして「買う」「食べる」「飲む」「遊ぶ」 「生活」の中から目的のジャンルと対象エリア(全地区、西地区、南地区等)を選択すると、 該当する店舗の情報が表示される。
 店舗情報には簡単なPRポイントの他に問い合わせ先電話番号、駐車場情報、営業時間、定 休日など最低限の基本情報の他に、携帯電話の液晶画面で表示できるサイズの簡単な地図が掲 載されている(図参照)。この地図を見ながら初めての顧客も迷うことなく店を訪れることがで きるわけだ。

  

 携帯電話の機能を利用した賢い活用法として「クーポン情報」という仕掛けがある。「クーポ ン有り」と明記されている店舗に関しては、クーポン情報が表示されているページを画面 メモ して来店時に提示しただけで割引や特典を受けられるというものだ。
 実店舗のマーケティング戦略として割引クーポンの配布は以前から注目されているが、実際 にクーポン券を配布するための店側のコスト負担を考えると実行するのが難しい。しかし「携 帯電話の液晶画面上に表示されたクーポン情報を提示する」という方式なら店側にとっても顧 客側にとってもクーポン利用の負担は少ない。

 このように、携帯電話を使ったモバイル・インターネットは始まったばかりだが、はかりし れない可能性を感じさせる。どんな企業規模でも大きな負担なく導入できる、敷居の低いモバ イル・インターネットの活用を検討されてはいかがだろうか。


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