<連載>(『マネジメント倶楽部』2000年11月号より転載)

探 訪
インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 検索サービスサイトのインフォシーク(www.infoseek.co.jp)で、「食材」をキーワードに検索すると40,000項目以上、また「レシピ」や「ハーブ」で検索しても同じく40,000件以上のページがヒットする。「調理法」でも9982件のデータが出てくる。そして、そのひとつひとつがグルメや毎日の食卓のヒントであったり、おいしいお店の紹介だったりする。
 
これらのサイトからインターネット通販で食材を購入して自前でクッキングしたり、完成品を出前してもらうこともできる。Webサイトからダウンロードしたクーポン券をプリントしてレストランに持っていき割引きでデート、としゃれ込むこともできる。ネットで食生活が確実に変化しつつある。



 大手スーパーは総菜をネット宅配

 2000年5月1日から、西友が業界初のネットスーパーを始めた。まだ配達地域が東京都杉並区のみで、加工食品や日用雑貨など5,000品目と限られているが、9月からは世田谷区にまでサービス範囲を広げ、生鮮食品や総菜の配達も始めた。今年度中には配達地域を東京、埼玉 、神奈川、千葉にまで広げる予定。(http://www.the-seiyu.com/netsuper/index.html)

 このサイトで注文すれば、注文した品物が最短3時間で配達される。西友は3年後にはネットスーパー事業で100億円から200億円の売り上げを目指すとしている。これに先立つ4月には、コンビニエンスストアのサンクスアソシエイツなどが都内の4区で同様の事業を始めている。東京から始まったサービスではあるが、全国各地で企画が進んでおり、食材をネットで受注して宅配するサービスは一挙に全国化する要素をはらんでいる。
 さまざまな事情でスーパーに買い物に行けなくても、食材をネット注文しておけば調理を始める頃には材料が台所に届くという寸法である。とことん自前派にとってはうれしいサービスといえる。



 若いベンチャーがレシピコミュニティ

 食材は手軽に調達できても、毎日の料理メニューを決めるのは頭痛の種だ。そんなときにバリエーションに富んだレシピ(調理法)を自由に検索して献立を決められるサイトがあれば便利だろう。野菜農家の2階にオフィスを構えていた20代の2人の若者がそんなサイトを作った。料理コミュニティサイトCookPad.com(http://www.cookpad.com)である。

 従来、レシピサイトは数々あるが、相当の投資をしてレシピを集めても季節感のない死んだデータになりかねず、雑誌や新聞などの記事に負けてしまう。このような問題点を、ユーザーがレシピを持ち寄るコミュニティサイトというコンセプトで解決したのがこのサイトである。このサイトでは、ユーザーが自由にお気に入りの、または自分だけのレシピを投稿でき、ユーザーどうしで批評しあえるのだ。しかも、メンバーとして登録し(登録料は無料)希望すれば毎日その日のおすすめレシピがメールで届けられる。これを参考にその日の献立を考え、スーパーなどの食材サイトで材料を調達すれば、毎日の苦労が半減することだろう。
 積極的な会員には「MYキッチン」というページが無料で提供される。「材料の入力」「分量 の記入」「写真の掲載」などの手順に従って入力していけば、レシピ掲載ページが簡単に作れる仕掛けが施してある。
 このサイトを運営している有限会社コイン(http://www.coin.co.jp)は、会員が寄せてくれるレシピを無料で他のサイトや媒体に提供し、料理ページの企画・制作・運営費で収益をあげるビジネスプランを立てている。これは、いま注目を浴びているLinuxやインターネットのバックボーンである相互扶助精神にも一脈通 じる、注目すべき事業プランだといえる。



 雑誌とネットとFAXを融合した出前取り次ぎサービス

  <じまえ>派にとってインターネット宅配が便利なことはわかった。しかし、食材から料理するのは面倒だし、かといっていつもピザや寿司の宅配だけじゃつまらない。近くの店だけでなく遠方からでも住んでる地域に配達してくれるすべての店のリストから好きなものを選びたい、そんな贅沢な<でまえ>派のために新しいデリバリーサービスが生まれた。
 雑誌、カタログ、Webサイトを統合した画期的なこのサービスを始めたのはエムアンドケイ株式会社(東京都世田谷区)。Webサイトの名前はそのものズバリ、「でまえや.com」(http://www.demaeya.com)。

 ネットを使った出前サービスはこれまで何種類も実現されている。では、「でまえや.com」の新しさはどこにあるか。それは店舗とメニューの網羅性、注文方法の多様性にある。このサービスは、出前の取り次ぎサービスなので、あらゆる種類の出前が可能である。特定チェーン店の特定メニューではない。大規模な宅配専門業者だけでなく、こだわりの専門店を探し出すこともできる。しかも、膨大なデータベースをもとにしているので検索して提示される宅配可能な店舗数が多い。さらに注文チャンネルが多様である。インターネットWebサイト、iモード専用の注文画面 、雑誌・カタログを見ての電話、Faxボックスと現在可能なすべての注文チャンネルを利用できる。誰でもいつでも利用できるシステムだ。
 「でまえや.com」には東京23区を中心にすでに約3,000店舗が加盟している。これだけでも相当の数だが事業会社は年内に1万店舗の加盟店獲得を目標にしている。加盟店が払う費用は月額3,000円の情報掲載費と1注文あたり80円の成功報酬。個人商店も参加しやすい価格に押さえられている。
 インターネットや携帯電話の普及により、食材や店屋物の宅配サービスにも大変革の波が押し寄せてきている。しかし、ベンチャー企業の登場により、大手チェーン店だけでなく、資金力のない中小飲食店にもビジネス参加のチャンスが生まれつつある。インターネットがこの業界をどう変化させていくか興味深いものがある。


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