<連載>(『マネジメント倶楽部』2001年1月号より転載)
探 訪
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インターネット活用事例
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野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)
インターネットはいまや生活のすみずみにまで浸透している。筆者は2000年の9月末、シリコンバレーで開かれたコンピュータ関係の展示会を視察した。ロサンゼルスでの出張の後ちょっと寄り道をしてサンフランシスコにホテルをとり、アメリカ人でも滅多にしない旅行ルートでインターネットの「聖地」シリコンバレーのサンノゼをめざした。今回の<探訪>はその記録である。
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ポータルサイトがあれば万全、と思ったが……
今では誰でも知っている、ヤフー(http://www.yahoo.co.jp/)はインターネットのポータルサイトと呼ばれる。インターネット世界の玄関という意味だ。ヤフーと同じようなポータルサイトとしては、グー(http://www.goo.ne.jp/)、インフォシーク(http://www.infoseek.co.jp/)、エクサイト(http://www.excite.co.jp/)などがある。どれもトップページはそっくりのデザインで、サービス内容も似通
っていて非常に使いやすくなっている。
出張や普段の移動のとき、これらのポータルサイトが提供している路線サービスを活用しているビジネスマンは多いだろう。出発駅と目的駅を入力すれば、一発で可能なルート、時間、料金などが表示される。
例えば、ヤフーの路線サービスで今回の私の出張の起点である東急田園都市線駒沢大学駅と目的地の成田空港を入力して検索すると、かかる時間順に5つの経路が表示される。その中で最も短時間で行けるコースは、東急田園都市線、JR山手線外回り、京成スカイライナー経由のコースで、時間は2時間0分、料金は片道2,270円、距離は86.7km、乗換え2回、定期代は1カ月40,040円といった具合である。サンフランシスコからサンノゼまでの距離も80kmほどである。
サンフランシスコの始発駅 これでも朝のラッシュどき
シリコンバレーへの経路を探る
急な出張だったため、サンノゼのホテルは空きがなく予約できなかった。それでサンフランシスコにホテルをとりサンノゼまでは電車で通うことにした。「サンノゼまで電車で行ける、カンファレンスホールは駅の目の前だ」と教えてくれる人がいたからだ。サンフランシスコのガイドブックにはシリコンバレーなど載っていなかったが、インターネット先進国のアメリカなら、インターネットを使って簡単にサンノゼに行けるだろうと楽観していた。
ロサンゼルスで次の目的地のサンノゼの話をすると、皆、飛行機で行くと思いこんでいる。「電車で行く」と話すと、例外なく「えっ」という顔をする。何人かにサンフランシスコからサンノゼまで電車で行く方法を聞いたが、誰も知らない。電車でなんか行けない、車で行け、という。会場のコンベンションセンターに行ったことのある人に会ったので、ダウンロードした会場周辺の地図を見せて「ライトトレインという電車の路線がある」と言うと、それは路面電車のようなもので、サンフランシスコまで行かない、途中で乗り換えだ、という。
さあ困った。それからはホテルで毎晩、パソコンとにらめっこで、サンフランシスコからサンノゼまで電車で行く方法を探った。その結果わかったことは、アメリカは完全に飛行機と車の国であり、日本のような路線サービスはヤフーなどの検索サービスにはない(そもそも交通
手段としての電車・列車は非常に貧弱)という事実だった。充実しているのは、道路地図とレンタカー情報であった。
キャルトレインを発見
ロサンゼルスで確実なルートを見つけられないまま、サンフランシスコに移動した。半日の間に電車ルートを発見しないと、タクシーで行く羽目になる。ケーブルカーの走るマーケット通りに面したホテルにチェックインして、受付けのホテルマンにサンノゼまでいく電車の駅を聞いた。ところがここでも知らないという。ホテルの目の前に地下鉄の駅があった。サンフランシスコ市内と近郊を走るバートという公営の地下鉄があることはガイドブックにも書いてあったので知っていた。自分の足で探るしかないと覚悟を決めて、地下道に降りていった。改札口にいた若い駅員に「サンノゼに行くにはどうすればいいのか」と聞くと怪訝そうな顔。英語が通じなかったかと思い、「電車でサンノゼに行きたいのだ、地図をくれ」というと、路線案内のパンフレットをくれたが、バートはサンノゼには行かないと言う。サンノゼへ行くのは「キャルトレイン」という路線だと言う。その始発駅への行き方を説明してくれるがバスを乗り継がないと行けないらしい。初めての街でバスに乗るのは難しい。その駅名をバートのパンフレットの余白に書いてもらい、タクシーを利用することにした。
タクシーで15分ほど、6ドルでキャルトレインの始発駅に着いた。想像していた駅舎とはまったく違って、広大な操車場つきの資材置き場の中にある貨物駅といった風情である。なんと、電車でなくディーゼルの「汽車」だった。
風貌は大陸横断鉄道 日本では珍しくなった大形ディーゼル機関車
無骨で図体の大きなスチール色に輝く2階建ての車両である。さながら大陸横断鉄道の雰囲気だ。サンフランシスコからサンノゼまでは東京駅から小田原駅くらいの距離である。大げさだなと思わず苦笑した。駅員に時刻表の載ったパンフレットをもらった。確かにサンノゼまで行く列車のダイヤが載っていた。さすがにインターネットの国、だだっ広い駅構内のあちこちにwww.caltrain.comの文字が流れる発光掲示板があった。その夜、このサイトをしっかりチェックしたことは言うまでもない。
優雅なキャルトレインの旅
翌朝、駅までのタクシー料金は今度はチップ込みで7ドル。一方、汽車の料金はサンノゼまでわずか4ドル。9時発の便に決めて乗り込んだ。電車に対する日本の常識とはまったくかけ離れている。ラッシュ時間帯の午前7時から昼間を挟んで夕方の7時まできちんと30分に1本。それ以外は1時間に1本未満である。ラッシュといっても席はがらがら。乗車率30%くらいだろうか。もちろん立っている人間などいない。ゆったりした席で、新聞をひろげる人、朝食を食べる人、ノートパソコンで仕事をする人、とじつに優雅である。
車両は2階建てで先頭車両には座席がなく、ただの空間だ。自転車を持って乗ってくる乗客用だ。途中駅で乗客が乗ってくるたびに車掌が乗客のチケットにパンチを入れに来る。乗車駅と行き先、日付、料金など。日本ではもうあまり見かけなくなったスタイルだ。この車掌に聞くと、乗降駅から会社までの交通手段がないから自転車を持ち込むしか方法がないのだという。自転車競技の選手のようにヘルメットとスポーツ着を着用しリュックを背負った若者が、自転車を肩に担いで乗り込んでくる。
自転車用スペースのある先頭車両 乗客はすくなくガラガラ