<連載>(『マネジメント倶楽部』2002年4月号より転載)
探 訪
インターネット活用事例

タイトル
野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 ブロードバンドの特徴は「速い」「安い」「常時接続」のインターネットである。従来の便利さをさらに一段高いところへ押し上げるブロードバンドの普及率は、今年中に1,000万世帯に達すると予想されている。ブロードバンド・ネットワークの実現により、放送の世界だけでなく、電話の世界も変わろうとしている。


 IP音声通信が実用に
 ケーブルを使った有線ブロードバンド提供サービスには、(1)xDSL(アナログ電話回線)、(2)CATV(同軸ケーブルまたは光ケーブル)、(3)FTTH(光ケーブル)の3種類がある。それぞれ、月額数千円の定額料金で、(1)8Mbps、(2)15Mbps、(3)100Mbpsの回線スピードを実現する。これは、ISDNの64kbpsに対して、(1)125倍、(2)234倍、(3)1563倍のスピードである。8Mbps以上のスピードが実現すれば、音声電話通信が十分実用の範囲に入る。これにより従来のインターネット電話の不評が解消、IP電話サービスが一般消費者にも受け入れられるようになってきた。


 IP電話サービスの急増
 IP電話とは、デジタル化された音声情報を細切れにしてインターネット通信網で送り、受信側で復元して通常の電話と変わらないサービスを提供する技術である。この技術を使って、格安のIP電話サービスを提供するフュージョン・コミュニケーションズ(東京・千代田区:URLはhttp://www.0038.net/)は、国内ならどこにかけても3分20円という低料金でIP電話サービスを提供している。すでに2001年12月末に加入者100万回線を達成した。

USEN.COM
フュージョン・コミュニケーションズ社のホームページより
http://www.0038.net/serv_con/
 日本国内の遠距離電話(100km超)の料金を比べると、NTTコミュニケーションズやKDDIの従来型電話が3分間80円であるのに対して、ソフトバンク・グループ:7.5円、フュージョン・コミュニケーションズ:20円、NTTエムイー:20〜40円、JENS:45円という安さである。
 さらに、国際電話ではその差はもっと開き、日本→米本土間が、NTTコミュニケーションズ:160円、KDDI:180円であるのに対して、ソフトバンク・グループ:7.5円、フュージョン・コミュニケーションズ:45円、JENS:45円、NTTエムイー:48円となっている。通信品質は従来型電話とほとんど変わらなくなっているから、消費者がいずれを選ぶかはもはや議論の余地なし、の地点まで現実は変化している。


 固定電話料金タダの時代がくる
 さらに注目すべきことは、ブロードバンドネットワークが地域にLAN(ローカルエリア・ネットワーク)を実現することである。これにより、従来考えられなかった革新が起きようとしている。電話料金がタダになるのである。ただし、IP電話専用の端末が必要になる。専用端末といっても、形状や使用方法は普通の固定電話とまったく同じ。端末の値段も需要の高まりによって安くなり、通常タイプの電話機と遜色ないところまで下がりつつある。
 ネットワークを構築したフロアや建家内では、コンピュータ、プリンタ、コピー、FAX、スキャナなどが常時ネットにつながっている。ブロードバンドネットワークは、これを地域に広げたのと同じと考えればよい。そのネットワークにIP電話をつなげば、ネットワークの内部では電話料金がいらなくなるのだ。このようなサービスを実施したり、実験したりする自治体が生まれつつある。北海道・西興部村や愛知県名古屋市郊外の大口町などだ。
 西興部村では、全戸にFTTHを導入し、牛舎に監視ロボットを設置したり、在宅健康管理端末を村民に配り、個別・ダイレクトに村民の血圧や体温などのデータを役場が収集しその場で遠隔健康管理するシステムを構築した。
 大口町では全世帯(人口2万人)にADSLを導入し、無料IP電話サービスの実験を開始した。

おれ最高世田谷
IP電話実証実験をお知らせする、大口町のホームページ
http://www.town.oguchi.aichi.jp/bb/bb.html


 携帯電話も無料になる?
 ADSL、CATV、FTTHなどケーブルによるブロードバンドネットワークの整備が進む一方、無線LANを使ったブロードバンド接続の動きも急である。これが普及すれば、携帯電話の無料化、そこまで行かなくても格安の定額サービスが可能となる。その動きはすでに、ブロードバンドカフェや街角LANなどの動きとして始まりつつある。これもまた目を離せない動きだ。

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