<連載>(『マネジメント倶楽部』2002年7月号より転載)
探 訪 インターネット活用事例
野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)
じゃまなケーブルをなくしてパソコンまわりがすっきり。無線LANの快適さが認識され、ADSL、CATV、FTTHなどケーブルによるブロードバンドネットワークの整備と並行して、無線を使ったブロードバンド接続の動きが急速に拡大している。
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無線LANとは?無線LANとはケーブルでなく無線でデータの送受信をするLAN(構内情報通信網)のことで、イーサーネット規格の一部である「IEEE 802.11b」などの規格を使った通信方式である。ケーブルを引き回す従来のLANだと頻繁にレイアウト変更をするオフィスでは変更の度に多くの時間と費用が費やされる。ちょっとパソコンを移動する場合でも電源だけでなくイーサーネットケーブルも調達しなければならず不便をかこっていた。無線LANではこのような問題は生じない。配線に制約の多い一般家庭でも無線LANは効果的で、最近ではダイヤルアップルータとノートパソコンとの間を無線LANで結ぶ製品も広く出回っている。
無線LANでは「ベースステーション」と呼ばれる中継機器を経由して端末と通信を行う。端末には無線LANカードが必要だ。100Mbpsの100Base-TX規格が浸透している有線LANに比べて伝送速度が11Mbps程度とさほど速くないこと、ケーブルに比べて費用が若干高いこと、他の電気機器との電波干渉により通信エラーが発生し得ることなどの欠陥もあるが、便利さがそれらの欠陥を凌駕して、無線LANはいま、急速に普及している。
■ブロードバンド無線LANの仕組み
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移動中のインターネットも可能に移動中のインターネットを可能にする無線LAN事業に多くの企業が参入したり、参入のための実験を開始している。
■無線LAN事業への主な参入状況
事業者名 場所 特徴 モバイルインターネット
サービス千代田・新宿・
三軒茶屋など4月から都内で提供開始。
基地局約200カ所を設置。 NTTコミュニケーションズ コンビニ・ ファストフード店 4月から首都圏や関西地区で展開 日本テレコム 東京など山手線の5駅 無料実験として7月まで実施中 NTT東日本 都内、北海道 5月から試験サービス開始
その中でも。移動体の無線LANを積極的に進めているのがモバイルインターネット株式会社(略称:MIS、本社:東京都新宿区、代表取締役:真野浩、http://www.miserv.net/)である。
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モバイルインターネット株式会社のホームページ
(http://www.miserv.net/)MISが進める「街角無線インターネット」事業は、いうならば「電柱のアクセスポイント化」である。MISが提供するサービスは、PHSや携帯電話で実施されているデータ通信サービスを最大11Mbpsという高速ブロードバンドで実現する。光ファイバーやCATV、ADSLなど有線回線が敷設された電柱などに数十〜数百メートルおきに無線ルーター(基地局)を設置して安価、定額、常時接続の無線インターネットを実現している。MISのサービスの特徴は、社名にもあるように移動しながらのインターネット通信を可能としている点である。これはルーターのハンドオーバー機能を使ったものであり、基地局間のシームレス通信を可能とする。また、不特定多数のユーザーが安心して使用できる暗号を使ったセキュリティ確保も実現されている。常時接続であるから、この無線LANとインターネット電話を組み合わせれば、電話料無料(ただし無線LAN接続料、インターネット接続料は必要)となる。携帯型のインターネット電話機が開発されれば、親泣かせの子供の携帯電話料金を大幅に軽減することも可能になるだろう。
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無線LAN注目の背景無線LANが注目される背景には、接続料金の安さがある。NTTコミュニケーションは月額1000円から2000円、MISは2000円台前半である。また、高速・大画面のインターネット通信を可能とする点も魅力のひとつになっている。これはNTTドコモの次世代携帯FORMA(フォーマ)の液晶画面は2インチ程度、速度も毎秒384キロビットである点と比べると比較にならない優位性をもっている。また、FORMAの通信料金がパケット制であるため、画像や動画など大容量データを交換するととんでもない料金になる点でも、常時接続・定額制の無線インターネットが有利な点である。さらには、FORMAの基地局を建設するのに1基数億円かかるのに比べ、無線LANの基地局は10万円前後である。圧倒的な低コスト――これが、無線LANに多数の事業者が参入してくる理由である。技術革新、ブロードバンド時代のビジネス革新のひとつがここからも始まる気配が感じられる。