<連載>(『マネジメント倶楽部』2003年2月号より転載)
探 訪 インターネット活用事例野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)
IPv6が学術的な実験段階から商用化を目指した実験・サービス段階に入ったといわれている。ユビキタス・コンピューティングなる耳慣れない言葉も横行しはじめた。これらはいったい何なのか。そして、一般のインターネット生活にどんな変化をもたらすものなのか。いまひとつ実感がわかない。そこで今回はその実例を調べてみることにする。
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IPv6とは?IPv6とは「インターネット・プロトコル・バージョン6」の略である。インターネットなどのネットワークでは「IPアドレス」と呼ぶ数字の列を使って通信を制御する。
現在、一般に利用されているのはIPv4で、そのアドレスは32ビットの数値を使う。したがってアドレスの最大個数は2の32乗個(約43億個)となる。膨大な数字に思えるが、世界人口より少ないアドレスしか提供できないIPv4では、早晩いきづまると予想される。そこで登場したのが「IPv6」だ。
IPv6ではアドレスを128ビットに拡張し、2の128乗個(約340×10億×10億×10億×10億個)の固有のアドレスを可能とする。事実上、無限個数だ。IPv6では、パソコンなどのコンピュータだけでなく、携帯端末やビル制御のシステム、ITS(インテリジェント交通システム)などの機器、はては各家庭の電気製品のすべてにIPアドレスを振り当てることが可能になる。
ユビキタス(ubiquitous)とはでは、ユビキタスとはなにか。この語は「いたるところに存在する」という意味。語源はラテン語だ。いつでも、どこからでもアクセスできる環境を目指す情報ネットワークの近未来像をあらわす用語として使われている。
ユビキタスを実現するアクセス用の端末としては、パソコンやPDA、携帯電話だけでなく冷蔵庫や電子レンジといった家電製品、自動車、自動販売機などまで拡張される。身に付けるコンピュータであるウェアラブル・コンピュータとの接続も開発中である。ユビキタスをより理想に近く実現するためには情報端末間の接続はケーブルでなく、無線LANやブルートゥースなどの無線ネットワークが理想とされる。
象印マホービンのi-POTIPv6とユビキタス・コンピューティング時代を先取りするサービスはすでにいろいろと実現されている。次に紹介する象印マホービン株式会社の「みまもりほっとライン」(http://www.mimamori.net/)は、両方の特徴を体現する好例である。
みまもりホットラインのホームページ(http://www.mimamori.net/) 「みまもりホットライン」は、高齢者の毎日の生活をマホービンを使って暖かくそっと見守るシステムである。端末として無線通信機を内蔵した電気ポット「iポット」を使用する。このiポットを1人で暮らすおばあちゃんやおじいちゃんが使うと、「電源を入れた」「給湯した」といったデータが、離れて暮らす家族のパソコンや携帯電話に届き、その確認画面で遠隔地の高齢者が元気に生活していることが確認できる。離れて暮らす大切な人の安否確認をサポートするサービスだ。
システムを簡単に説明する。
(1)iポットの電源を入れたり、給湯したりすると、その信号が内蔵されている無線通信機から発信される。
(2)発信された操作信号は、NTTドコモのDoPa網(無線電話回線)を通してシステムセンタの専用サーバへ送られる。
(3)1日2回、ユーザが指定した時刻に、iポットの使用状況がEメールで携帯電話やパソコンに送信される。また、専用ホームページから、いつでも好きな時にiポットの使用状況を確認できる。
このシステムで使われているDoPa網とはNTTドコモのパケット通信サービスのことで、時間、距離に関係なくデータ量に応じて通信料が計算されるサービスだ。サービスエリアは、全国人口の約99.99%をカバーしている。「みまもりほっとライン」は、このDoPa網を採用することにより、全国どこからでも一定料金でのサービスを可能としている。マホービンという毎日つかう家電製品になにげなく無線通信設備を内蔵させインターネット網と接続することにより、使って便利なだけでなく家族の愛情を形にするサービスが実現されている。技術の発展が日常生活を豊かに便利にしているほほえましい光景といえるだろう。
最新の使用状況、過去1週間分の使用状況を確認できる画面
IPv6とユビキタス・コンピューティング技術はこのように、日常生活で無意識に使われる器具のすべてをコンピュータ・ネットワーク網に接続できる技術である。この技術の活用方法はまったく未知数だ。どんな思いがけない素晴らしいサービスが登場してくるか、楽しみである。