<連載>(『マネジメント倶楽部』2003年6月号より転載)
探 訪
インターネット活用事例

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 携帯電話の普及台数が7,000万台を超え、普及限界の8,000万台に近づくにつれて、カメラ付き携帯や動画像を送れるFOMAなどのモバイル・マルチメディア電話に光があたってきた。多くの機種が発売されているだけでなく、カメラ付き携帯はデジタルカメラのシェアすら奪いつつある。そして動画を送れる携帯の登場。つぎはビデオカメラが食われるのだろうか?


 FOMAとは?
 FOMAとは、Freedom Of Mobile multimedia Access の略で、NTTドコモが第3世代移動体通信サービスとして送り出した移動体通信である。その名の示すとおり、狙いは「どこでも自由にマルチメディアにアクセス」できるようにすることである。従来方式の約40倍のスピードを持つ高速データ通信をも可能とする。2001年の10月に登場したときは通信料金がかさむなどの理由でいまいち普及に弾みがつかなかったが、最近になって料金が改定され、新しい利用方法が開発されることにより普及のスピードが加速している。

 活用例(1) 建設現場作業員情報共有システム
 NTTドコモ(http://www.nttdocomo.co.jp/)はテレビ電話に対応するFOMAの機能を活かした「建設現場作業員情報共有システム」を提案している。このシステムはNTT東日本およびNTT西日本が提供するデュアルモードテレビ電話機「Moppet(モペット)」(http://www.ntt-east.co.jp/ced/goods/moppet/)やインターネットにつないだパソコンを利用してFOMA端末を通して動画像の情報をやり取りするシステムである。NTTドコモは、このシステムによれば「工事の状況を映像によって多人数で同時に確認できるほか音声通話もできるので、FOMA端末を持った現場作業員と会話をしながら必要な箇所を撮影してもらうことが可能になる」としている。大がかりでかつ経費のかかったこれまでのシステムと異なり、作業現場と現場事務所間の移動による車両やエレベーターなどの使用が抑制されることにより、エネルギーの使用量や温室効果ガス・大気汚染物質の排出量の削減効果も期待できる。

 活用例(2) テレビ会議システム (NTTドコモ環境レポート2002より))(図1)
 NTTドコモはもうひとつの活用例としてテレビ会議システムを提案している。この方法によれば、テレビ会議システムをきわめて安価に構築できる。遠隔地の支店や出張先などから手元のパソコンをFOMAで本社のLANに接続し、映像と音声のやり取りができる。またそれだけでなく、パソコン上のアプリケーションの操作を双方で行いながらの打ち合わせを可能にする。つまり、商品の仕様や文書を確認しながら距離を意識することなく会議ができるのである。
図1 テレビ会議システム(NTTドコモ環境レポート2002より)

 画期的な個人テレビ放送局の誕生
 FOMAやモペットなどの機能を活かして、驚くほど手軽に個人でテレビ放送を楽しめるシステムが登場した。個人テレビ放送局のポータルサイト「ご近所テレビ」である。
「ご近所テレビ」のホームページ(http://gokinjo.tv/ 開発:(株)キャラバン
 このサイトにアクセスしてみてほしい。放送番組が掲載されている。これらはすべて、FOMAや動画像を送れるPHS端末1個で実現される個人テレビ放送の番組なのだ。放送を実現する操作は、個人放送をしたいひとが「ご近所テレビ局」に動画像対応端末から電話をかけるだけである。それだけで、放送者の会話や放送者が撮影する映像がインターネットを通してパソコンのディスプレイに表示される。いとも簡単に<1対多数>のテレビ放送が実現してしまうのだ。それを実現するシステムの概要は図2の通りである。
図2 TV電話機能付き携帯電話でテレビ放送を可能にするシステム図
 システム図をみれば分かるように、ビデオカメラ付き携帯電話1台でいつでもどこでもテレビ放送が可能となる。この原理はアフガニスタン戦争やイラク戦争で、戦場から従軍記者が音声付き映像を送ってきたのと同じである。また、戦争現場などリソースに限りのある現場でプロが使っているものとほとんど変わらない放送がパソコンを使わず携帯電話1台で手軽に実現できるのである。もちろん、パソコンでの放送も可能だ。
 「ご近所テレビ放送局」では、各放送者が自己流に番組を放送する。決った日時に放送する者、不定期に放送する者、地域の情報を発信する者とさまざまだ。それぞれ個性があり、他の人とは違うスタイルで放送されている。何が起こるか、どんな展開になるか、まったく先が読めない。そこが面白いところだ。
 技術の進歩は時として開発者が思ってもみなかったような使われ方をする。「ご近所テレビ」はその1例であろう。

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