<連載第2回>(『ビジネス倶楽部』1997年11月号より転載)
野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)
インターネットを業務に活用する場合、さまざまな方法がある。この連載では活用方法として最もポピュラーなホームページを取り上げる。
「ホームページを開設したが効果のほどがわからない」という声を聞くことがある。どんなメディアでもそうだが、誰に、何を、どう伝え、何を実現したいのかを明確にしなければ、効果をあげることも、効果を確認することもできない。
初回は、薬用育毛剤というユニークな商品のマーケティングにホームページを有効に活用している三和生薬を取り上げる。三和生薬は、育毛剤のプレゼントをホームページを通して行うことにより、ホームページの弱点と言われている「告知」効果を見事に達成している。
東北自動車道を鹿沼インターチェンジで降りる。マロニエの街路樹が美しい宇都宮市街を抜け、国道4号線をしばらく走ると、緑豊かで広大な落ちついたたたずまいの平出工業団地に出る。
1962年の会社創立の時から、三和生薬株式会社は、平出工業団地の1万1864平米のゆったりとした敷地の中で「加工ブシ」という医薬品の研究・製造一筋に歩んできた医薬品製造メーカーである。
「加工ブシ」はトリカブトを減毒してえられる医薬品で、漢方処方に配合されたり単独で「アコニンサン錠」として用いられている。三和生薬は「漢方薬の品質の善し悪しは原料生薬の品質で決まる。良い原料を用いなければ、良い製品はできない」というこだわりを貫き、採算的には輸入が有利であるにもかかわらず、1989年に種苗法による品種登録(サンワおくかぶと1号)を受け、北海道豊浦町の栽培園(約20ヘクタール)で原料栽培から製品製造に取り組んでいる。
三和生薬の村山光雄取締役(薬学博士)にうかがった。
――トリカブトから薬用育毛剤ラドカムを開発されたのはなにがきっかけでしたか?
「約10年ほど前、トリカブトの冷えを取る作用に着目し研究を進めていた。加工ブシをつかっている医師から『卵巣ガンの術後に強く現れる冷えを解消するために加工ブシを投与していたら、抗ガン剤で頭髪が薄くなった頭皮から毛が生えてきた』という話を聞いたこと。その後開発をつづけ、厚生省にも5年通い続け、やっと平成7年8月に薬用育毛剤ラドカムとして許可を得ることができた。」
――販売に当たっての宣伝は最初、マスコミをお使いでしたね。
「さあ、いよいよ販売だ! ということになったが、当社の営業は漢方薬の営業で手一杯。とても育毛剤までは手が回らない。そこで、通販だ、ということになり、広告代理店をつかってプレスリリースをばらまいた。この試用品プレゼントキャンペーン5カ月間で、67の新聞・雑誌がラドカムを取り上げてくれ、9,000人を超える応募があった。」
――インターネットの活用をお考えになった理由は?
「インターネットをよく知っていたわけではないが、農家が米の直販で成功しているというニュースを聞いて強いインパクトを受けた。それでわが社もやってみよう、ということになった。新製品を世の中に告知しなければならないのに、予算は豊かでない、という現実もあった。」
――ホームページの開設は当社にやらせていただいたのですが、その後の運営はご自分でおやりです。どんな問題がありましたか?
「インターネットでは営業を動かすような大きな経費はかからず、しかも自分の責任の範囲で独断と偏見で行えることもあり、気軽な気持ちで取りかかることができた。最初は数々の検索エンジンに登録することから始めた。そしてあとは放っておけば良いと思い、特に何もしなかった。そうすると、アクセス件数が次第に少なくなる傾向が見られた。ホームページからの注文もほとんどなかった。この状況を変えるには、とにかくアクセス件数を増やすしかない。どうすればいいか悩んだ。
もう一度、初心に帰り、自分の目標を整理してみた。インターネットで何をしたかったのか。
1. 薬用育毛剤ラドカムを広く告知したい。
2. 薬用育毛剤ラドカムの良さを知ってもらいたい。
3. 薬用育毛剤ラドカムを買ってもらいたい。
以上の3点が自分の初心だったことを再確認した。
<1>の「告知したい」は、アクセス件数が少ないといっても、開設以来ずっと毎日十数件以上のアクセスがあったのでいくらか達成できている。<2>の「良さを知ってもらう」は、ホームページ上の説明文や映像表現で知らしめるには限界があるのではないかと考えた。過去のフリーダイヤルでの受注状況を見ると、注文者の7割がリピートであることがわかった。それなら使っていただけることが<2>を達成するのに最も近道である。良さをわかっていただけば、必ず<3>に結びつくと考えた。そして、インターネットでもラドカムプレゼントキャンペーンを始めた。具体的には、「毎月5名様にプレゼント」というページをつくった。実際の当選者は5名より多くした。」
――効果のほどはいかがでしたか?
「ホームページの改定後、最初はやはり検索サーバーへの登録からスタートした。その過程で、ある懸賞ページを見つけた。調べてみると、プレゼント商品の宣伝を無料でやってくれるこの種の懸賞サーバーが多数あることを知った。懸賞情報をE-メールで流してくれる無料サービスもあった。
5月の中旬からこれらのサーバーへのリンクをスタートし、約3カ月過ぎた。ホームページへの毎日の来訪者は数倍に増え、プレゼント応募者も数千人にのぼった。もうひとつの目標である受注はこの企画を始める前の約4倍になった。まだ結論は出ていないが、このままキャンペーンを5カ月実行すれば、広告代理店を使った新聞・雑誌での成果を超えそうな勢いだ。勿論、これにかかった経費は前者とは比べものにならないほど少ない。」
――インターネットならではの成果もあったそうですね?
「インターネットは新聞・雑誌・テレビなどのメディアと違って双方向の交信が手軽にできることである。手紙・はがきは年賀状しか出さない自分でも、メールならいつのまにか出している。プレゼント当選者の方からはお礼のメールやご意見・ご指導をいただいた。これらは新聞・雑誌での当選者ではみられなかった。メールで寄せられた意見を参考にして『ハンディ・ラドカム』という新製品を開発した。もっともっと、メール機能の活用を研究してみたい。
今後の夢もある。それは、医薬品は対面販売が基本とされ、原則として通販は認められていないが、インターネットは双方向のコミュニケーションである。従来の通販とはディメンションが異なる。このような観点から、インターネットを用いた医薬品の対面販売ができないか模索中である。」
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