<連載第8回>(『マネジメント倶楽部』1998年12月号より転載)

探 訪
 インターネット活用事例・番外編

野口壽一(株式会社キャラバン・代表取締役)

 西暦2000年を目前にして、コンピュータの「西暦2000年問題」が正念場を迎えている。  この問題はマスコミでも随分と取り上げられているからもうご存じの読者も多いと思われるが、インターネット活用事例を求めて探訪する先々で、2000年問題とは何か、どんな影響があるのか、具体的な対処はどうすればいいのか、等々と質問された。そこで今号では番外編として2000年問題について考えてみる。

 2000年問題とはなにか 

 「西暦2000年問題」をコンピュータ言語風に表現すれば「y2k」問題。yはyear、2kは2000の略である。コンピュータを動かすプログラムはアルファベットと数字で記述される。コンピュータでこのような略語がよく使われるのは、プログラムを記憶させるメモリと呼ばれる半導体が昔は高かったからである。10年ほど前はなんと現在の1万倍以上の値段がした。そこで例えば、西暦1989年12月24日は、89/12/24と表記することにして記憶する文字数を減らしたのである。
 したがって、特別の対策を施していないコンピュータでは、西暦2000年の表記「00」が1900年と間違って解釈される可能性がある。当然、間違った解釈は即、コンピュータの誤動作につながる。広く世界的に「年」を西暦の下2桁だけで表記するのが標準化されたために、この問題は世界的な問題となった。さらにこの10年間にネットワークがすさまじい勢いで発達し成長したため、2000年問題は企業や国家の枠を超えて世界的な問題となったのである。
 また、2000年は閏年である。これが正しくプログラムされていないと、2000年2月29日となるべきところが3月1日と誤認される。

 2000年問題の重大性 

 現代社会はコンピュータなしには運営できない。電力・ガス・石油などのエネルギーから、あらゆる交通・通信手段、上下水道の管理などのインフラストラクチャーから、食糧・医療などの私たちの体そのものの維持まで、コンピュータなしでは正常な運営ができないところまで、コンピュータは社会生活に密接に組み込まれている。一企業の会計事務や生産管理、商品管理、顧客管理を行うコンピュータが、関連企業の情報システムと接続されているケースは多いし、銀行システムともつながっている場合もある。このように経済生活はコンピュータに大きく依存している。もしひとつのコンピュータが暴走を始めると、そのコンピュータと接続されたネットワークが影響を受ける。そしてその影響はドミノ倒しのようにつぎつぎと拡大していく。
 アメリカに比べて、日本では2000年問題に対する対策が遅れている。小渕政権は2000年まで500日を切ったときに開かれた閣議で具体的な対策の必要性を確認したが、これは、日本発のコンピュータパニックを恐れて、大統領直轄の「2000年問題対策協議会」で日本の金融機関などの対応の遅れに対して懸念を表明したアメリカ政府の圧力に対する反応であった。

 隠された大問題 

 銀行や企業の大規模システムで使われるメインフレームやオフコン、パソコンなどのように外見からコンピュータと分かるものだけでなく、いろいろな機器に組み込まれたマイクロチップにも2000年問題がある。エレベータや防火システム、通信ネットワークや自動車や航空機、工場の機械やロボット、医療機器などから冷蔵庫や炊飯器などの生活道具などに組み込まれたマイクロチップの中にはカレンダー機能を持ったものがある。例えば、エレベータの制御システムに組み込まれたマイクロチップの中には、過去6カ月以内に定期点検をしていない場合にはリフトの作動を停止するプログラムが組み込まれている場合がある。ここで00が1900年と認識されるとその過去6カ月以内に定期点検がなされているはずがない。リフトが突然止まれば、人が閉じこめられる危険性がある。車や飛行機などの交通機関の場合はもっと心配が大きい。ロシアからミサイルが誤発射される可能性を真顔で論じる軍事評論家さえいるほどだ。

 対策 

   2000年問題のやっかいな点は、2000年になる前に、つまり現在すでにその問題が発生しているかもしれない点である。実際、アメリカのミシガン州では客のクレジットカードを店員がPOS(販売時点管理)端末に入れたら、その瞬間に店内のコンピュータがダウンした、という事件が発生した。この客のカードの有効期限が「2000年」だったのだ。このスーパーは、POS端末のメーカーとディーラーを提訴したという。
 経営の立場に立つと、一見後ろ向きに見える2000年問題よりも前向きな情報システムの構築に資金を配分したいと思うものだ。しかし、2000年問題を正しくクリアしておかないと、現在動いているシステム全体がダウンしてしまうかもしれない深刻な問題である。問題が起きてから重要性に気づいても遅いのである。この問題の対策をどう進めるか、全銀協(全国銀行協会連合会)は次のようなワークフローを提案している。

  1. 西暦2000年問題の重要性について経営レベルでしっかり位置づけること
  2. 使用しているコンピュータシステムの洗い出し
  3. コンピュータシステムが正常に動かなくなった場合の影響の評価。各システムの対応優先度の確定
  4. システムベンダーなどの専門家の協力を得て対応計画を立案。
  5. システム変更などの作業の進行状況の把握
  6. 関係する接続先との間でのテスト
  7. 2000年問題で異常が発生した場合の対応の準備
 「2000年問題」への対応にはコストがかかるので、各種の支援措置が利用できる。例えば、中小企業金融公庫などの公的融資や債務保証が受けられる。また、プログラム修正費用が西暦2000年問題対応のためである旨が請求書などに明示されている場合の損金参入など、税制面の対応もある。

 「西暦2000年問題」は、一部の大げさな論調に惑わされることなく、さりとて問題を軽視せず足許を見つめて堅実に対処すべき課題である。


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